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<第一電波工業がデモンストレーション>メーカーが行うハンディ機用/モービル用アンテナの測定・調整法とは? (2020/3/20 10:00:43)
「ダイヤモンドアンテナ」のブランドで知られるアンテナメーカー、第一電波工業株式会社は2020年2月、同社がハンディ機用のアンテナをどのように測定・調整しているかを知ってもらうことを目的として、メディア関係者向けに説明会を開催した。本記事後半ではモービル用ホイップアンテナの測定・調整についても紹介している。
第一電波工業はアマチュア用から業務用まで、用途や周波数帯に応じたさまざまなアンテナの製造販売を行っている。アマチュア無線用アンテナはHFからUHF、ビームアンテナ、GPアンテナ、ホイップなどさまざまな種類があり、同社ホームページに掲載されているだけでもおよそ160もの商品がある。さらにアンテナ基台、アンテナポール、ケーブル、電源、スピーカー、マイク、分配器・切替器といった、アマチュア無線運用に欠かせない周辺機器も多数ラインアップされている。
ところで同社には毎日、ユーザーから多数の問い合わせや相談が寄せられているが、最近は特に増えてきた質問があるという。それは、
「市販のアンテナアナライザーで、ハンディ機用のホイップアンテナを測定してみたところ、SWRの最良点がアマチュアバンドの中心(例:145.00MHz)から大きく外れている。これは不良品ではないか?」
--という内容だそうだ。
しかしその問い合わせのほぼ100%は、“ユーザー自身の測定方法が誤っている”ことに原因があり、実際にハンディ機を接続して使えばスペック通りの周波数でSWRが最小となり、設計通りの性能を発揮できているという。
同社は「この機会にぜひ、第一電波工業がハンディ機用のアンテナをどのような条件で測定・調整しているかを知ってほしい」として、2020年2月のある日、埼玉県川越市の同社事業所で、メディア向けの説明会が開催された。
最初に同社スタッフがアンテナの基本原理を説明。1/4波長のホイップアンテナは良好なアース(接地)が必要になること、同社のハンディ機用のホイップアンテナの多くは1/4波長をベースに設計され、全長を短縮したり、複数のバンドで同調したりするために底部にコイルやマッチング回路を入れているという説明があった。
なおモービルホイップでは電圧給電でアース不要のノンラジアルタイプが人気だが、ノンラジアルタイプは「構造が複雑になり価格が高くなる」「周波数帯域が1/4波長型のアンテナに比べやや狭い」「全長を短くすると周波数帯域が非常に狭くなってしまう」といった点がある。そのためハンディ機用のホイップアンテナではあまり採用していないということだった。
続いて、ハンディ機用のホイップアンテナを測定・調整する方法の実演が行われた。同社は測定時にアンテナを接続する部分に、ハンディ機と同じ構造のダミー筐体(実際のハンディ機と同じ位置にアンテナコネクタがあり、底部に設けた測定機接続用アンテナ端子と結線されている)を用いている。
ダミー筐体は「アマチュア無線用のハンディ機」「デジタル小電力コミュニティ無線用のハンディ機」「一般業務無線用のハンディ機」など、用途や周波数帯に応じたものが準備されている。取引先から貸与されるもののほか、自社で製品を購入し新品を分解して作成することもあるという。
まずダミー筐体に測定器(ROHDE & SCHWARZ社製のネットワークアナライザー)を専用ケーブルで接続する。このケーブルが測定結果に影響しないようにダミー筐体との接続側にはフィルタを入れている。
ROHDE & SCHWARZ(ローデ・シュワルツ)社製のネットワークアナライザーを使用。幅広い周波数に対応し、スミスチャートを用いたインピーダンス表示やSWR測定はもちろん、挿入損失、電流分布、電流位相など視覚的に把握できる。測定器は1年に1回ISO規格に基づいた点検校正を実施している
続いてアンテナ端子にダミーロードを付けて測定器の校正(キャリブレーション)をする。これを行うことで線路の補正(キャンセル)をし、筐体コネクタ先端での測定値を見ることができる。その上で測定を行うホイップアンテナをダミー筐体に取り付け、筐体を片手で持って口元に近づけ、アンテナがなるべく垂直になるようにして計測を行う。
ちなみに、校正(キャリブレーション)は「OSM(OPEN-SHORT-MATCH)校正」などと呼ばれ、オープン・ショートで位相を補正し、マッチ(ダミーロード)でインピーダンス補正を行っている。「厳密なことを言えば、ケーブルは外気温度で多少の伸び縮みをするため、時間が経過するごとに補正がずれます。これは特に高い周波数帯になればなるほど顕著です。アマチュアバンドですと430MHz帯以上はケーブルの伸縮によって補正値に変化が出ます」と担当者が説明してくれた。
今回の説明会では、デジタル小電力コミュニティ無線(142.934375~142.984375MHz、146.934375~146.984375MHz)用ハンディ機のために設計されたホイップアンテナ、「 SRH140DH 」(1/4波長型、全長36cm)で実験を行った。使用するダミー筐体はもちろんデジタル小電力コミュニティ無線用のハンディ機をベースに作られたもので、その筐体内部には実機同様のフレームや主要基板が入っている。
上記の方法で正しく測定した場合、設計上のアンテナの中心周波数である145.00MHz付近でSWRは1.2以下となり、同コミュニティ無線の割り当てチャンネルのすべてで1.5以下という良好な数値が得られた。この測定中、試しにダミー筐体を口元から遠ざけたり、高々と持ち上げたりすると中心周波数やSWRの最良値などはかなり変化した。
次に、アマチュア無線家にもよく使われている市販のアンテナアナライザーを用意し、そのアンテナ端子に、同じSRH140DHを直接取り付けた状態(N→SMAの変換コネクタを使用)で測定したところ、中心周波数は139.95MHz付近まで下がり、145.00MHz付近はSWR1.9程度という測定結果となった。
同社スタッフによると「当社にユーザーの方から寄せられる“アンテナが壊れているのではないか”“同調が取れていない”という問い合わせは、まさにこうして測ったものと考えられます」ということだった。
同調周波数がズレて測定される原因だが、「市販のアンテナアナライザーは、アンテナコネクタ部分の一部のみしか金属を使っていないため、静電容量が足りず、十分なアースが取れていないことが大きいのです」と説明。加えて「“無線機を手で持ち、口元に近づける”など、実際のハンディ機の使用方法に近い状態で測定を行っていないことも、測定結果の相違につながります」という理由もあるという。
また「140MHz帯のデジタル小電力コミュニティ無線は、周波数帯がアマチュア無線と酷似していることから、“このアンテナをアマチュア無線機に使えないか?”、あるいは、“アマチュア無線用のアンテナをこのコミュニティ無線に使用できないか?”という問い合わせも多いです」と担当者は打ち明ける。
しかし上記の結果からわかるように、測定筐体が違うだけで測定値が大幅に変化するため「使用できません」という説明をしているそうだ。ちなみにSRH140DHなどデジタル小電力コミュニティ無線用のアンテナは140MHz帯のモノバンド仕様で、アマチュア無線の430MHz帯には対応していない。また同無線には「空中線利得は2.14dBi以下」という法規制があるので、理論上は1/4波長か1/2波長のアンテナしか使えない。もしアマチュア無線用のアンテナを使用すると形式や利得の違いから、法律違反の恐れもあると注意を促していた。
ちなみにハンディ機用のホイップアンテナの設計だが、試作・実験レベルではダミー筐体のような測定治具で調整を行い、仕様決定後は1メートル四方の鉄板の中央にアンテナコネクタを設けたアース板で計測して相関関係を確認し、そのデータを元に量産現場(工場)で合わせ込みを行っているため、「理論的には1m板で同じように調整すれば、もう一度測定治具で測定しても特性に差異は出ないはずです。従って工場には基本的に1m板しか置いていません」という。
次ページ では「モービル用アンテナの測定と調整について」を説明!!