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feed USB 5V入力12V出力変換アダプターの製作 (2020/10/27 20:04:00)

製作の動機

最近は、車載用のレーダー探知機やポータブルナビも12電源じゃなくてUSB端子から充電できるような製品が増えているが、12Vシガーソケットから電源供給・充電するタイプの機器もまだまだ転がっている。

殆ど車に乗らない生活スタイルに変わったので、車載機器を持ち出していてバッテリーが空になった時に充電する手段が無くて困っていた。

普段からスマホ用にモバイルバッテリーやUSB電源アダプターは持ち歩いているで、
USB の 5V を 12V に昇圧して DC IN ジャックに変換する機器が在ればいいのだが、
検索してもなかなか良いものが無い!
ので、自分で作ることにした。

検討・調達

5V -> 12V 昇圧用の適当な部品が無いかネットで検索してみたら、
インダクタ不要のチャージポンプIC
というのが有った。

NJU7660 は USB の 5V 入力だと倍電圧で10Vでちょっと足りない。
NJU7670 は負電圧用だけど3倍電圧出力があり、逆に使えば15V=3x 5V出力可。しかし15Vを12Vに落とすのに3端子シリーズレギュレーターなんかを使ったら、折角のインダクタ不要のスペースメリットが無くなってしまう。

という、入力電源電圧範囲:4.5V~5.5V、+12V ±5%安定化出力 という電圧に関してはベストなICもあった。

しかし、変換効率が良く、部品が少なくて小さく作れるメリットが非常に魅力的なキャパシタによるチャージポンプ方式も、宿命的に出力電流があまり取れず充電用途には役不足なので諦める。

そこで常識的にインダクタを使った古典的な昇圧DC-DCコンバータICで、
スイッチング素子内蔵の JRC NJM2374  や Linear Technology LT1172 あたりのICと、インダクタを物色に秋葉原へ。

で、 秋月電子 に寄って部品棚を物色していると

最大24V出力 昇圧型スイッチング電源モジュール LMR62421(TI)使用キット[AE-LMR62421]
仕様
・出力電圧範囲:3.5V~24V
・入力電圧範囲:2.7V~5.5V(入力電圧<出力電圧)
・スイッチング周波数:1.6MHz
・効率:90%(入力5V、出力12V、電流0.3A)

という 30 mm角、高さ14 mmのDC-DC昇圧キットを発見!
これなら基板作成の手間も不要だし、DIP IC とバラの部品で組むより小さく作れそうなので、コレにする。
ついでに出来るだけ小さくてモジュールが収まりそうなプラケースも調達。

製作

家に帰ってから説明書とDC-DC ICのデータブックをチェック。
  • DC-DC IC は TI の LMR62421 という、なんの変哲もないスイッチング素子内蔵の 5 pin 昇圧 PWM DC-DC 

  • 電流制限は内蔵スイッチング素子のON期間中の電流監視で大きさは固定。
  • 負荷電流が大きくなると、PC の USB 5V 出力 500 mA を超える可能性もあるが、モバイルバッテリーなら大丈夫か?
  • DC-DC IC 等の表面実装部品は基板に半田付け済。電解コンデンサやVR、端子台などを半田付けするだけで完成。小さい部品が見づらくなったお年頃には有難い :-)

回路図はシンプルでなんの変哲もないこんなの。
多回転半固定抵抗 VR1 で昇圧出力電圧を調整できる。


動作確認

CN1 Vin+ に USB VUBS +5V を掛けて、
CN2 Vout が 12V になるように VR1 を調整する。

約 180 mA の負荷を掛けた時の、
U1 LMR62421 Pin.1 "SW" のスイッチング電圧波形を確認した。
負荷 約180mA 5V/div, 0.2us/div
インダクタンス L1 の電流が 0 にならない電流連続モードで動作しており。
変なリンギングも無く、きれいなスイッチング波形。

次に、負荷を軽く約 10 mA で観測してみる。
インダクタンス L1 の値からすると、電流不連続モードに突入するので
負荷が大きい時のように綺麗なスイッチング波形にはならないはず。
負荷 約10mA 5V/div, 0.2us/div
予想通りに、インダクタンスに電流が流れない区間が出来てスイッチング波形が暴れる。
主にインダクタンスとスイッチング素子の寄生容量による共振現象で、高周波ノイズをまき散らす。
しかし、歯抜けのPWM波形にまで酷くはなっていない。

さらに負荷を軽くすると、PWM周期の1周期の間にスイッチングが行われない場合が出てきて、
歯抜けPWM風のスイッチング動作になり、低周波ノイズをまき散らすことになる。
この低周波ノイズは周期がランダムっぽく、高周波ノイズのように簡単にフィルターで落とすことが難しい。

昇圧スイッチング回路は、原理的には車のイグニッションコイルによる高圧発生回路と同じ。
完璧な無負荷でスイッチングが起きると、超高電圧が発生してしまう。
実際には完全な無負荷はあり得ないので、超が付くほどの高電圧にはならないが。

そこで、あまり軽負荷になりすぎないように。
動作中の表示も兼ねて、Green LED + 1 kOhm の約10 mA @12V 負荷を出力 CN2 に付加しておくことにした。
 

初号機

最初、写真のような小さいプラケースに
USBケーブルと、
JEITA(旧EIAJ)電圧区分#4 のDCジャックを、
取り付けて組み込んだ。

  初号機 組込後
でも、カバンの中でかさばって邪魔に感じてたので、もっと小型化を画策。

弐号機

小型化の為に、
場所を食うJACK類を
  • MicroUSB Type-B JACK ケーブル
  • JEITA(EIAJ) 電圧区分#4 DC JACK ケーブル
に置き換えて、
背の高いネジ端子 CN1, CN2 を外し、
代わりにケーブルを直接基板端子に接続。
変な力が接続部に掛からないようにケーブルを、
結束バンドで基板に固定。
最小出力負荷を与える、動作チェック用 LED + 抵抗も取り付ける。

背の高い電解コンデンサ C1, C2 を一旦取り外し、
足の長さを延長して、横倒しにして半田づけ。

これまた背の高い、多回転可変抵抗 VR1 を外し、
出力電圧が約 12 V になるように、18 kOhm の固定抵抗に交換。

これで高さが低くなって、全体を薄くできた。

ケースの代わりに、熱収縮チューブで覆って絶縁。

完成。

かなりペタンこになって、持ち歩いても邪魔にならなそう。

実際に使うときには、
12V 機器側に合わせた DC PLUG と、JEITA(EIAJ) 電圧区分#4 DC PLUG 
を接続したケーブル・アダプターで電源供給。


閑話休題


DC プラグ・ジャック端子規格

ACアダプターのDC端子の、極性やプラグ形状の乱立をなんとかしたいと、
旧 EIAJ, 現 JEITA が、せっかく 
という統一規格を作ったのだが、
結局あまり普及しなかった。

そうこうしている内に、Mini -> Micro USB 端子が電源供給端子として
使われるようになって普及している。+5V が欲しいならコレが一番便利。

今後は、この用途にも Type-C USB が使われるようになるのかな?
電力や電圧もいっぱい取れるし。
ネックはコントローラーICが必要になるので、コストがどれだけ抑えられるか。


DC-DCコンバーターの設計について

DC-DCコンバーターは、一般的なアナログ回路ともデジタル回路とも、ちょっとセンスが違うので。
意外にベテランと思われるエンジニアにも、しっかり理解されていない場合がある。

PWM 方式 DC-DC で、一番のキモはインダクタンスの選定。

コントローラーICが決められていたら、

  • スイッチング周波数
  • 消費電流の固定費になる IC 自体の消費電流
  • スイッチング素子の抵抗成分、最小電圧
  • フライホイール・ダイオード内蔵であれば、その Vf

などは選択の余地ほぼなし。

動作条件として

  • 入力電圧範囲
  • 出力電圧と、想定する負荷電流範囲

が同一でも、

  • 高負荷時の効率を重視するのか?軽負荷時の効率を重視するのか?
  • 電流不連続モードまで使うのか?避けるのか?

という設計者の意図次第で、最適なインダクタンスは変わるので、
一意に決まるものではない。

なので、
「このインダクタ定数の選定理由は?」
           と訊いて、
「データシートの回路例の部品定数だ」 
と答えが返ってきたら、
その設計はかなり怪しいと思って間違いなし。
回路例と自分の欲しい動作条件が全く同一なのか?意図も一緒なのか?

また、盲点として。
シリーズ・レギュレーターと違って、PWM 方式の DC-DC コンバーターの場合。
負荷が重いときより、軽い時にノイズをまき散らしたりスイッチングが不安定になって問題を起こしやすい。

ある程度いい加減に設計されていても、極端に定格を満たしていない部品を使わないかぎり、
負荷が重い時は安定して動作しやすい。
しかし、負荷が軽くなるとインダクタ電流不連続モードに突入しやすくなる。
電流不連続モードのインダクタ電流が流れない区間では、
インダクタの抵抗成分で電力消費されないので、
変換効率を上げる為に意図して使われる場合もある。
でも、電流が流れずスイッチング素子がOFFという事は、
インダクタが不安定なオープン状態。
極端になるとコイルが鳴き出したり、出力ノイズが大きくなったりして
用途によっては問題となる。


そして、パワー・インダクタという部品も曲者。

同じコアで、インダクタンス増やそうとすると、細い線をいっぱい巻くので、
  • 直流抵抗が増えて損失も増える
  • 磁気飽和も起こしやすい

逆に、インダクタンス減らすために、太い電線を少なく巻くと
  • 損失も減って大電流まで磁気飽和を起こさないけど
  • インダクタのリップル電流振幅が大きくなりすぎる

全てのパラメーターがトレードオフの関係。
その上に、個別の型番毎の流通量で値段も違うので、
小さいコアの部品の方が絶対安いとも限らない。

ホントは、出力電流に応じてインダクタンス値が可変にできたら、
設計がかなり楽になるのだが、残念ながら現時点ではそんな都合の良い部品はないね。

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