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feed アマチュア無線の社会貢献活動での活用省令改正案 これまでとこれから (2021/2/14 21:22:57)

2021年2月2日に、標記の件のパブコメ結果が公表されました。

電波法施行規則の一部を改正する省令案等に係る電波監理審議会からの答申及び意見募集の結果-アマチュア無線の社会貢献活動での活用、小中学生のアマチュア無線の体験機会の拡大-
https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01kiban14_02000491.html

私の基本スタンス

①アマチュア無線家が社会貢献に主体的にたずさわることにより、アマチュア無線の価値と地位の向上を図るというプラスの面には賛成、
②社会貢献を口実に、本来、「金銭上の利益のためでなく、もっぱら個人的な無線技術の興味によって行う」はずのアマチュア無線が業務無線的に使われかねないというマイナス面については強く反対。

です。

①のプラス面については、2020年10月17日の拙稿「 『社会貢献活動・体験機会拡大』改正案パブコメの読み解き 」に詳しく書きました。

その後、Twitter上でのやりとり、 米国FCCの「アマチュア通信と運用に関するFAQ」の精査 など、議論を通じて、②の問題点について深く意識するようになりました。

最終的には、11月17日の記事「 『社会貢献活動・体験機会拡大』改正案パブコメへの意見提出 」に書いた意見を総務省に提出しました。上記の基本スタンスに基づき、②のマイナス面は、「金銭上の利益のためでなく」「もっぱら個人的な無線技術の興味によって」の2要件で排除されますね?と、ネチネチと質問し確認を求める内容でした。

パブコメ結果の検討① ー 成果

まず、多くの無線家が懸念を表明していたダントラ問題(アマチュア無線による業務連絡が合法化されるのでは?)について、総務省は、

「当然ながら、企業等の営利法人等の営利活動のためにアマチュア無線を使用することは認められません。これまでどおり、 いわゆる公共工事等において、企業等の営利法人等の営利活動のために行う通信は、アマチュア業務に当たりません。

と明言しましたが、それだけでなく、告示そのものに、

「なお、各号に掲げる業務には、 営利を目的とする法人等の営利事業の用に供する業務は含まれない。

との文言が入りました。この文言を入れさせたのは大きな成果だと思います。ダントラが「俺たちは社会貢献してるんだ!」と言ってきたら、この告示を示せばよいのです。

パブコメの結果、告示案の文言が変わることはなかなかありません。これは、意見を提出されたアマチュア無線家個人個人の力が合わさった成果であり、JARLもJARDもなしえなかったこととして誇りに思ってよいと思います。

また、電波監視を強化せよという数多くの意見により、

「不法無線局、違反運用等の不正利用を防止し、電波の適正な利用環境を確保できるよう、上記のような取締、周知等の取組を引き続き適切に実施してまいります。」

と総務省に宣言させました。まあ、ここまでなら一般論にすぎないかもしれませんが、さらに総務省は、

過去に違法行為や違反運用の事実が確認された業界団体等と連携し 、周知、広報を実施してまいります。」

と、かなり具体的に踏み込んでいます。総務省・総通におかれては、一過性に終わることなく、業界団体を通じた違法行為の是正キャンペーンを、ぜひ、継続的に実行していただきたいと思います。

パブコメ結果の検討② ー 「実費に相当する額」

他方、総務省の回答には疑問もあります。特に重大なのは、「金銭上の利益のためでなく」=アマチュア無線の非営利性についての総務省の回答です。

まず、 別紙2 の9頁に、

「個人が活動の対価として受領する金品の額が当該活動に必要な「 実費に相当する額 」の範囲内であれば「金銭上の利益」とはならない」

という見解が示されています。「金銭上の利益」については、理屈として、

A説:「おカネは一切受け取ってはならない」という解釈
B説:「利益=収入ー支出」と考えて、「実費までなら、その分の支出をしており『利益』を得ていないからOK」という解釈

がありえると思います。

難しいのは、①大学がアマチュア無線を利用した実験・研究(衛星通信など)をする場合、先生が大学から給料をもらっていることをどう考えるか、②イベントで通信ボランティアを行う場合に、市区町村から給料をもらっている職員が通信網に参加することを認めるか、という問題です。直感的に、これらはOKとして欲しい気もしますが、「金銭上の利益」を厳密に考えると、認められないことになってしまいます。

米国は、おカネを一切受け取らない、というA説を採用しているようです。それはそれで一つの割り切りです。私も、「実費」には幅がありうる(例えば、リグ代まで出してもらってよいのか?)ので、A説で割り切らないと、現場を仕切る総通やボランティアの人たちが困るのでは?と思っていました。

しかし、総務省はB説を採用した上で、今後、OKな場合とNGな場合についての「基本的な考え」を示し、それを受けてJARLが「ガイドライン」を作るという政策を採用しました。間口は広めに確保しておいて、実際の運用の中で、徐々に秩序を作り上げていくという手法です。法律的には、「事例の蓄積に委ねる」という、ときどきある政策手法です。

実際問題として、 説得的でわかりやすく、現場で使えるガイドライン をを作るのはたいへんな作業だと思うのですが、JARLがその大変な作業を引き受けることを前提に、総務省がB説を採用したということです。総務省は、悪く言えば、責任を半ばJARLに押しつけた、良く言えば、「 アマチュアバンドをどのようにしたいかはアマチュア無線家の側で決めなさい 」と任せてきた、ということだと思います。

今後作成・公表される、総務省の「基本的な考え方」とJARLの「ガイドライン」の内容に注目する必要があります。

パブコメ結果の検討③ ー 疑問

さて、総務省は、上記の部分に※印を付けて、「※「営利性」等に関する補足事項」と題して、3つのケースについて解説を加えています。まず、営利法人については、

「・企業等の 営利法人 等の従業員等が、企業等の営利法人等の営利活動以外の活動のためにアマチュア無線を使用する場合であって、告示案の社会貢献活動等に適合するものは、アマチュア業務として認められる。企業等の営利法人等の営利活動のためにアマチュア無線を使用することは認められない。」

これは、いいでしょう。異論ありません。次は、非営利法人について、

「・NPO法人等の 非営利法人等 (国、地方公共団体等、NPO法人、社団法人、財団法人、農業協同組合等)については、営利を目的としない団体であることから、これらの職員や組合員等が当該法人の事業のためにアマチュア無線を使用する場合であって、告示案の社会貢献活動等に適合するものは、アマチュア業務として認められる。」

この部分は、説明が不足していると思います。実は、NPOは、収益を目的とする事業を行って良いことになっています。内閣府の「NPOホームページ」にも、下記のとおり明記されています。

「「NPO」とは「Non-Profit Organization」又は「Not-for-Profit Organization」の略称で、様々な社会貢献活動を行い、団体の構成員に対し、収益を分配することを目的としない団体の総称です。したがって、 収益を目的とする事業を行うこと自体は認められます が、事業で得た収益は、様々な社会貢献活動に充てることになります。」
https://www.npo-homepage.go.jp/about/npo-kisochishiki/npoiroha

このように、 「団体の非営利性」と「事業活動の非営利性」は区別しなければなりません。そして、非営利法人が「収益を目的とする活動」を行うケースでは、「金銭上の利益」を得ていることは明らかであり、アマチュア無線の定義「金銭上の利益のためでなく」を満たさないはずです。 ですので、総務省の回答は、

「・NPO法人等の 非営利法人等 (国、地方公共団体等、NPO法人、社団法人、財団法人、農業協同組合等)については、営利を目的としない団体であることから、これらの職員や組合員等が当該法人の事業のためにアマチュア無線を使用する場合であって、告示案の社会貢献活動等に適合するものは、アマチュア業務として認められる。 ただし、非営利法人等であっても、営利活動のためにアマチュア無線を使用することは認められない。

と、最後の但し書きを入れるべきであったと考えます。この但し書きがなければ、NPO法人が運営する高齢者デイケアの送迎バスのためにアマチュア無線を使うことが、OKになってしまいます。

さらに次、国又は地方公共団体についての箇所。ここは明らかにおかしいと思います。

「・ 国又は地方公共団体等 が実施する事業に係る地域活動については、制度上又は施策上の仕組みの結果として、個人が活動の対価として受領する金品の額が当該活動に必要な 「実費に相当する額」を超えるとしても、アマチュア業務に含まれることとしている。」

先に指摘した部分では「 実費に相当する額の範囲内であればよい 」と言いながら、国又は地方公共団体が関与すると、急に「実費に相当する額」を超えてもよいとしているのは、 自己矛盾ではないでしょうか 。せっかく「実費に相当する額」という網を掛けながら、大きな穴が開いたザルになってしまっています。上限すら示されていません。

その結果、支給される額が実費を超え、アマチュア無線利用者の手元に利益が残ることがあり得ます。 実費を超えた額が支給されるケースでは、「金銭上の利益」を得ていることは明らかであり、アマチュア局の定義「金銭上の利益のためでなく」を満たさないはずです。

また、「制度上又は施策上の仕組み」といいますが、具体的に何を指しているのかがわかりません。

私は、総務省が、自己矛盾した回答を示すとはさすがに予想していませんでした。そこで、パブコメ結果公表後、総務省の担当部署に電話して、以上の点を指摘しました。すると、「基本的な考え方」を準備する際に検討するので、意見があれば文書で出してほしいとのことです。

なお、22頁には、このような記載もあります。

「国又は地方公共団体等は公益性が高く、営利を目的としない団体であることから、当該団体等の公務員が国又は地方公共団体等が実施する事業に係る地域活動のためにアマチュア無線を使用する場合は、 給与の支払い を受けていたとしてもアマチュア業務として認められます。【No.②及びNo.③】も御参照ください。」

直感的には、給与は「金銭上の利益」にあたりそうです。ここで、例えば「公務員が受け取る給与は、通常勤務に対する報酬であってアマチュア無線を運用することに対する報酬ではない、だから、アマチュア無線を運用することで『金銭上の利益』を得ていることにならないからOK」という理由を立てるなら、(その是非はともかく)理屈としては理解できます(この考えに立てば、先に挙げた大学の先生や市役所職員の例は、OKになりそうです。)。

ですが、総務省の回答は、「公共性が高い」「営利を目的としない」というだけで何でもOKにするように読めます。これでは法治国家ではありません。国がやること、地方公共団体がやることなら良いだろう、では理由になりません。アマチュア無線はあくまで「金銭上の利益のためでなく、もっぱら個人的な無線技術の興味によって行う」ものであり、今回の改正も、その点は、総務省も変更していないはずです。ダメなものはダメなのです。

「社会貢献活動での活用(案)」のでどころ

今回の改正は、JARLとJARDが2020年10月5日に総務省に要望書を提出したことを受けたことになっています。JARLが繰り返し強調しているとおりです。

アマチュア無線による社会貢献活動への取り組み等に関する要望書を提出
https://www.jarl.org/Japanese/2_Joho/News2020/2020_news-10.htm

この要望書は、「①アマチュア無線家が社会貢献に主体的にたずさわることにより、アマチュア無線の価値と地位の向上を図るというプラスの面」を要望するものです。

他方で、今回のパブコメに、一般社団法人大日本猟友会が以下の賛成意見を出していたことに、私は驚愕しました。

「社会貢献活動をアマチュア無線活用の対象とする今回の改正省令及び告示案は、阪神淡路大震災を契機としてボランティア等による社会貢献活動が地域を支える重要な活動となっている現在においては大変有意義であり、かつ公共の財産であるべきアマチュア無線の利用対象としても適切と考えられるものであり、全面的に賛成です。
 本会関係の狩猟に関しても、これまでいわば趣味で行う「登録狩猟」には使用できるものの、社会貢献活動としての性格が強い「鳥獣被害対策」には使用できませんでしたので、本改正が実現すれば、現在全国各地で社会問題にもなっている鳥獣被害対策の推進にも大きな効果があるものです。」

総務省の資料別添1(ポンチ絵)に、「有害鳥獣対策」がはじめから記載されていたのは、実はウラで、猟友会からの要望があったからに違いありません。消防団関係者からも要望があったかどうかは、わかりません。

これから(ガイドライン作成に向けて)

さて、先に書いたとおり、ボールはアマチュア無線家の側に投げられました。これからJARLが作るというガイドラインの内容は、極めて重要です。私は、「すでにアマチュア無線を楽しんでいる無線家に対するメッセージ」と、「ボランティアに使えると聞いてやってきた人に対するメッセージ」は、分けた方が良いように思います。

「ボランティアに使えると聞いてやってきた人」に対するメッセージとしては、例えば、

  • (総務省が言うとおり、)今回の改正は、社会貢献活動等を行う通信として、アマチュア無線を使用させる・推奨するものではなく、アマチュア無線は選択肢のひとつにすぎないこと。
  • 業務には業務無線を使うのが本筋であること。
  • 今や、デジ簡や特小、スマホの通信アプリ(Zello)、ドッグマーカーなどの便利な手段があること。
  • アマチュア無線は、従事者免許と局免許を取らないといけないこと。日数がかかること。5年に1回更新が必要なこと。
  • 無線機は結構高いし、遠くに飛ばそうと思えばアンテナも買わないといけないこと。
  • ふだんから充電しておかないといけないこと。ふだんから使いこなしておかないと、いざというときに使用方法がわからなかったりすること。
  • アマチュア無線は、秘話・暗語は使えず、多くのアマチュア無線家に聴かれる可能性もあるので、秘匿性の高い通信にはむいていないこと。
  • バンドプランを守る必要があること。
  • 他のユーザーとの混信があること。ボランティアだからといってチャンネル優先権があるわけではなく、混信したら周波数を変えないといけないこと。
  • 少なくとも10分に1回、コールサインを言わなければいけないこと。
  • 無償ボランティア、または有償であっても実費までに限られること(総務省の回答にかかわらず、JARLとしてはこのように言いたい)。

等々の現実を、まずはわかっていただかないといけないと思います。正直言って、ここまで言えば、「要するにかなり面倒なんですね。やっぱやめます。」となる例が多いのではないでしょうか。ですが、バラ色の絵を示して後でがっかりされ、アマチュア無線に対する印象がかえって悪くなっては元も子もありません。

それでもアマチュア無線を使いたい人がいたら、そういう方は、アマチュア無線そのものに(も)興味がある人ではないでしょうか。それなら、

  • 本来、アマチュア無線は、「もっぱら個人的な無線技術の興味によって」行うものであること。
  • どこまで飛ぶか不確実な通信の楽しみ、DX通信、コンテスト、アワード、宇宙通信、インターネットやパソコンとの融合、自作等々、技術的にも楽しいことがいっぱいあること。

と伝えたいところです。「私達の側」に引き込めるチャンスかもしれません。

他方で、すでにアマチュア無線を楽しんでいる無線家に対しては、例えば、

  • 社会貢献活動は強制ではないこと。
  • ボランティア通信が優先するわけではないこと。
  • 社会貢献といえど無理はしないこと。無理をするなら相当の覚悟がないとかえって迷惑になるばかりか、自身・他人の人命に関わる事態を引き起こすこともありうること。
  • アマチュア無線の特性を考えた社会貢献活動にすること(例えば、町内にそれなりの数の局が散らばっており、お互いの通信状況がふだんからわかっている地域では、災害時に市区町村内の被災状況を役所に置かれた中央局に伝達する、といった社会貢献が考えられそう。)。
  • アマチュア無線を絶対に使わなければならないわけではなく、デジ簡や特小と組み合わせた通信網や、それらのみの通信網がよい場合もあること。
  • 無線に対する知識を生かした、市中の専門家としての貢献が可能であり、重要であること(実例→ https://twitter.com/7K1BIB/status/1357180732129480704
  • 社会貢献活動を通じて、アマチュア無線に対する理解が深まり、アマチュア無線の価値と地位が少しでも向上するのは、よいことでは?

といったメッセージを、ガイドラインに盛り込むと良いのではないでしょうか。

さて、今後JARLは、どのような考えに基づき、どのような手順で、ガイドラインを作っていくのでしょうか。

「アマチュア無線家が増え、会員が増えれば何でもいい」という下心、「趣味でカネが稼げるならいいじゃん」といった安易な(間違った)考えのもと、「どんどんアマチュア無線を使いましょう」といったゆるゆるのガイドラインができないことを願います。のみならず、今回の改正案に「カネの匂い」を嗅ぎ取り、報酬が出る有償ボランティアを一部の会員に独占させるようなことがあったら、最悪です。

この問題は、アマチュア無線の本質に関わる重要事項だと思います。事務局や一部の会員のみの密室で決めるべきではありません。社会貢献活動の経験ある委員による委員会を設置し、委員会が作成したガイドライン原案をパブコメにかけ、広く意見を募るべきだと思います。その上で、JARLが、アマチュア無線の本質を正確に理解した、正しいメッセージを発信してくれることを期待し、注視していきたいと思います。

(2021-02-13 記)


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