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鉱石検波考 (2021/3/20 16:44:10)
自らは電源を持たず、細々とした電波のエネルギーを捉え、それをわずかな電気に変え、目的の周波数から音声を紡ぎ出す、無電源ラジオの奥深さにはまってしまうと、なかなか抜け出せない魅力があります。そして、技術の進歩に逆行する鉱石そのものによる検波。もの好きと言われればそれまでですが、実際試してみてやはり捨てがたいものがあります。
第一に音質の良さがあります。ゲルマニウム単結晶や紅亜鉛鉱(ジンカイト)はとりわけ良好で、調和のとれた厚みのある聞き疲れしない音を聞かせてくれます。いろんなダイオードを試してみましたが、これまでのところ、これら鉱石に勝るものはありません。異なる鉱石同士の接合検波ではさらに高音質が得られ驚かされることがあります。この点は続行中です。
ゲルマニウム単結晶
第二に感度。当所、1N60や1N270などのダイオードには及ばないとの感触だったのですが、必ずしもそうでもないと思うようになりました。適切な検波位置を探り当てると突如大音量となり、ダイオードに劣らぬ性能の高さを実感できます。定番として知られる方鉛鉱や黄鉄鉱では聞こえることは聞こえますが十分な感度は得られません。シリコン原石や精製品も同様です。自分の経験では紅亜鉛鉱とゲルマニウム単結晶がこの点でも優れています。Vfが極端に低くなる箇所が存在するということでしょうか。
第三に欠点ともいえるのですが、電波の揺らぎ?が感じられます。鉱石の一点に検波針を当て、かすかな音声が聞こえてきたとします。その状態のまましばらくするとじわりと音量が上がってくることがあります。またその逆もあり、あたかも大きなフェージングに見舞われているような感覚になります。単に表面の酸化によるものなのかもしれませんが、電波の底知れないエネルギーのようにも、あるいは鉱石と対話しているようにも感じられ、先端デバイスにはない独特の味わいがあります。信号が安定しないということでもありますが、これはこれで気に入っています。
紅亜鉛鉱(ジンカイト)
そして鉱物(石)が検波することそのものの現象、天然の整流作用、その神秘さにはまってしまいました。検波の際、針で探るという行為もなにかのメッセージを受け取る儀式のように思えなくもないです。プロセスを踏まないとメッセージは受け取れず簡単には聞こえてこない・・・ひと手間かけた体験を伴うところに独特の面白さがあります。
いろいろなものを付け加えて性能を高めるのではなく、どんどんそぎ落として、そぎ落とした中に電波のエネルギーを感じ取り、原初的な音を聞く。先人たちは意外にも感度良く良質な音で聞いていたのでは? こんなふうに遡って追体験してみると、消え去った中にもなにか掘り起こすべきものがあったのでは? などと考えてしまいます。
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