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JARL選挙は何を選ぶのか(2022年版) (2022/2/20 17:40:44)
「JARL選挙は重要と言われるけど、いったい何を選ぶのかよくわからない」という声をよく聞きます。私なりの解説を書いてみました。
そもそも「一般社団法人」って何?
「 一般社団法人及び一般財団法人に関する法律 」(法人法)に基づいて設立される法人です。いくつか特徴を述べてみます。
- 「法人」なので、個人とは区別された団体です。法人名義で財産を取得したり保有したりできます。
- 「社団」法人、つまり人の集まりです 。財産に法人格を与える「財団」法人と区別されます。
- 法定の要件をみたせばだれても設立できます。2006年以前と異なり、官庁の設立許可は不要です。監督官庁はありません。 JARLは、総務省や内閣府等に監督される存在ではありません。自律したきちんとした運営が求められます。
- JARLは「一般」社団法人なので、公益性を有する団体として認められた「公益」社団法人と比較して、税制優遇措置は限定的です(「非営利型法人」に該当する(JARL定款62条、63条)ので、一部事業について課税対象から外れます。参考資料: https://www.nta.go.jp/publication/pamph/hojin/koekihojin/pdf/01.pdf )
- 一般社団法人も収益事業を行ってもよいのですが、営利法人である「株式会社」と異なり、営利を目的とはしません。 もっとも、一般社団法人だからといって、赤字を長年垂れ流し、ついに留保金の底が見えてくる状況を放置することが許されるわけではありません。団体としての継続性(最近の言葉で言えば、「サステナビリティ」)が求められるのは当然です。
JARLの「機関」
JARL Webの「JARLの組織」ページ では、「JARLの組織には、社員総会、理事会、監事、地方本部、支部、委員会、および事務局があ(る)」と書かれています。そのうち、法律で決まっている組織(機関)は、「社員総会」「理事会」「監事」だけです。
社員総会と社員
「社員総会」は、「社員」が参加してJARLの基本的な事項を決める会議です。「社員」とは、一般用語の「従業員」という意味ではなくて、法律用語、つまり一般社団法人を構成する「人」のことです。
JARLでは、会員から選挙で選ばれた者が、法律上の一般社団法人の「社員」と扱われることになっています。名称がわかりにくいですね。 「社員」は、会員の意見を「社員総会」で代弁する「代議員」と思えばわかりやすいと思います。ですので、会員の意見を「社員総会」できちんと代弁してくれそうな人に投票すべきだと思います。 どこかでコールサインを聞いたことがあるとか、アマチュア無線にアクティブだからという基準で投票すべきではありません。 JARL選挙は人気投票ではないのです。
なお、社員には、社員総会への交通費は出ますが、給料は出ません(無報酬です)。
理事会と理事・監事
理事会は、社団法人の進む方向性を多数決で決める極めて重要な機関です。 理事会は理事と監事で構成されます。理事と監事は、社員総会の決議で選任されます(法人法第63条)。
専務理事には報酬が支払われます(現在は900万円/年)。その他の理事・監事は、交通費は支給されるものの、無報酬とされています。
理事・監事は名誉職では ない
理事のうち、JARLの業務執行権限を持つのは、会長と専務理事の2名だけです(JARL定款第23条第2項、第4項)。よって、この2名の責任は重大です。とはいえ、役職のない理事も、会長と専務理事を監督するという、重大な任務を負っています(法人法第90条第2項第2号)。もし、JARL理事の中に、「理事は会長・専務理事のやることを絶対に支えないといけない」と考えている方がいらっしゃれば、その考えは改めて頂いた方がよいと思います。忠臣は、時には主君の誤りを諫めることも必要だと思うのです。
監事は、理事の職務の執行を監査します。監事には、理事等に対して事業報告を求めたり、業務及び財産状況の調査をしたりする強大な権限が与えられています(法人法第99条)。理事の行為の差し止めすらできます(法人法第103条)。
JARLに対し損害を負わせた理事・監事は、JARLに対し損害賠償責任を負います(法人法111条)。業務執行権限を負う会長・専務理事に加えて、監督責任を怠った理事も、JARLに対し損害賠償責任を負うでしょう。なお、役員保険に入っているから安心と思っているかもしれませんが、保険会社も、故意・過失のある役員(会長や専務理事に漫然と運営を任せ、監督責任を果たさない理事・監事)には、保険金を出さないでしょう。
JARLにおける「理事候補者」の選び方
法律では、理事・監事が社員総会の決議で選任されるところまでは決まっているのですが、その「候補者」の選び方は社団法人によってさまざまです。例えば、「役員推薦委員会」といった独立の機関を設けて候補者を選ぶ団体もある(例: Vリーグ機構 )一方で、理事・監事の候補者全員を会員の選挙により選ぶ団体もあります(例: 情報処理学会 )。
JARLの場合、理事・監事の候補者は、 選挙と推薦のハイブリッド方式 で選ばれます。
まず「理事候補者」ですが、2年に1度、4月に投票が行われるJARL選挙で、①全国理事5名と②地方理事10名の理事候補者が決まります。その後、(過去の例では)2020年5月の理事会で、③理事会が推薦する理事候補者2名が追加され、合計最大17名の「理事候補者」が決まり、6月の社員総会に上程されます( JARL定款 第21条第1項、 JARL規則 第26条第1項)。
推薦理事2名という枠はなかなか興味深いものですが、以下の基準により推薦されることになっています(JARL規則第27条)。
(1) 正員であって、専門分野における学識経験を有し、連盟の業務執行上適当である者
(2) 事務局の管理者であって、連盟の運営上適当である者
要するに、有識者を招聘するための枠と事務局を総括する専務理事を、選挙によらずに確保するためのものと思われます。もっとも、専務理事を、選挙で選ばれた理事から選ぶことは禁じられてはいません。
JARLにおける「監事候補者」の選び方
「監事候補者」は、(過去の例では)2020年5月の理事会で、最大2名の監事候補者が決まり、6月の社員総会に上程されます(JARL定款第21条第2項、JARL規則第26条第2項)。旧法人の時代は監事も選挙で選ばれていましたが、新法人への組織変更の際に、理事会(実質的には会長)の推薦になってしまいました。
社員総会での承認
繰り返しますが、 「理事候補者」も「監事候補者」も、6月に開催される社員総会で承認されないと、正式に理事・監事になることはできません (JARL定款第21条第2項、JARL規則第26条)。なお、少なくとも選挙を経ていない推薦理事2名と監事2名に対しては、30分の1以上の社員(定員138人に欠員がなければ、5人以上)が集れば、対立候補を共同提案できると解されます(法人法43条)。
社員は、選挙で示された会員の意思に拘束されるべきだ、というご意見を聞くことがありますが、法人法上、そのような仕組みは取れませんし、事態はそう単純ではないと思います。まず、推薦理事2名と監事2名は、選挙を経ていませんので、専務理事や監事の仕事ぶりがJARL=会員のためになっていないと思えば、社員は、躊躇なく否認票を投じるべきと考えます。また、選挙で選ばれた理事候補者についても、選挙後に不適切な事実(例えば選挙違反)が発覚した場合は、社員は、否認票を投じることも許されるでしょう。
6月の社員総会で理事・監事の承認・不承認を決める社員は、今年のJARL選挙で選ばれる社員ではなく、2年前のJARL選挙で選ばれた社員です。 2年前の選挙で示された会員の意思によって今後2年の役員の顔ぶれが決められる のは、奇妙ではありますが、現行制度はそうなってしまっています。
6月の社員総会の直後に、社員総会で正式に承認された理事・監事によって理事会が開催されます。 この理事会で、会長、2名の副会長、1名の専務理事が互選されます (JARL定款第22条)。この互選は、多数決で決まります。
今年の選挙で選ばれた社員の活動開始時期
今年の選挙で選ばれた社員の任期は、今年6月の社員総会の終了後に始まります。ですので、来年と再来年の社員総会には、今年の選挙で選ばれた社員が出席します。
もし、来年の社員総会前に臨時社員総会が開催されれば、その臨時社員総会には、今年の選挙で選ばれた社員が出席することになります。
今回の社員選挙で、今のJARLを良しとしない社員が社員総会の多数派を占めれば、6月以降に執行部を取り替えることだってできます。今までも執行部のやり方がおかしいと訴えていた社員に加えて、今までは執行部を支持していたがやはりおかしいと思うようになった社員も含めての過半数です。その意味でも、今回の社員選挙は非常に重要です。
(2022-02-20 記)
追伸:私、7K1BIB/山内貴博は、2022年JARL選挙において、関東社員に立候補しています。このように、法律家としての知識・経験を生かした情報発信を続けて参ります。私に1票をどうぞよろしくお願いいたします。
JARL選挙立候補に当たっての所信(2022年関東社員)