無線ブログ集
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昭和の時代の中古無線機を探すのが好きなhamlife.jpスタッフ。ある日、某無線ショップのWebサイトで「老舗販売店の倉庫にあった物です。未使用品と思われます」と書かれた、1968(昭和43)年製の無線機が売りに出ているのを発見、珍しさから脊髄反射的にポチってしまった…。そんな話を久しぶりのスタッフ雑記としてお届けしよう。
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昭和43年5月製造、株式会社井上電機製作所のFDFM-2(144Mc帯、FM2Wトランシーバー)を購入
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無線ショップのWebサイトに出ていた告知。「老舗販売店の倉庫にあった物です、未使用品と思われます」のコメントを見て、脊髄反射的にポチってしまった…
無線ショップのWebサイトで発見したのは「FDFM-2」という型番の144Mc帯(※)FMのオールトランジスター式トランシーバー。製造したのは4年前(昭和39年)に創業したばかりの無線機器メーカー、株式会社井上電機製作所(略称:I.E.W.、本社:大阪市東住吉区)で、当時の価格は42,500円。この年の大卒初任給は30,200円なので、かなり高価だったようだ(※周波数呼称がサイクル=c/sから、ヘルツ=Hzに変更されたのは1972年7月のこと)。
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届いた段ボール箱は、経年変化で状態が悪かった
ポチってから2日後、経年変化で赤茶色になった段ボール箱が送られてきた。側面には「ALL TRANSISTOR TRANSCEIVER IEW(FDFM-2)」と印刷されている(FMの“F”と“2”はゴム印)。恐る恐る中を開けると、ビニールに包まれた無線機本体、マイク、説明書、付属品などが出てきた。段ボール箱ほどの経年変化はなく、特に無線機本体は錆もなく非常に美しく、とても半世紀以上前の無線機とは思えない。また「I.C.E」という銘板が付いたハンドマイク(フォスター製)も美しく、カールコードの樹脂がドロドロに溶けるような現象も見られない。
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箱を開けると、ビニール袋に包まれた本体や付属品、説明書類が入っていた
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本体は非常に美しく、錆などは見られない
付属品は全長50cmのロッドアンテナ、車内取付用の金具、取扱説明書、回路図、保証依頼書、そして井上電機製作所が同じ時期に新発売した無線機のカタログ(50Mc帯ポータブル機のFDAM-3型、HF帯SSB送受信機のIC-700T/IC-700R、FDFMシリーズのFMトランシーバー)だった。残念ながら電源コードは欠品のようだ。
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付属品や説明書類も取り出してみた
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取扱説明書と昭和43年当時の無線機カタログ、保証依頼書など
取扱説明書は使用トランジスターのリストから、保守・調整方法まで詳しく書かれている。また保証依頼書はハガキ形式で7円切手が貼られている。これに記入して井上電機製作所に送ると正式な保証書が送られてくるらしい。製造から54年経過した今、この保証依頼書を同社に送ってみたらどうなるだろうか? ちょっと試してみたい衝動に駆られたが、そういう輩がいることを見越したのか、保証依頼書には「発送月日より6ヶ月以内に保証依頼なき場合は保証できません」と書かれていた…。
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付属していた回路図
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取扱説明書の2~3ページ目
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使用トランジスターの一覧表。受信部初段は2SC384、送信部終段は2SC730を使用
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保証依頼書は思わず投函してみたくなった
FDFM-2のフロントパネルは70×160mmで、ここにスケルチ、音量、チャンネル切り替え、メーター切り替えの4つのツマミが並び、下段には小型メーター(ラジケータ)、電源スイッチとマイクコネクタ(3P)を配置したシンプルなもの。パネルの左下に穴があるが、これは付属のロッドアンテナ取り付け用。ここにロッドアンテナを差し込み、別売の電池BOX(単1×8本)を本体底部に取り付けることでポータブル運用ができる構造になっていた。本体重量は約1.5kgだが、電池BOXを取り付けると総重量は3kgを超えるようだ。
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FDFM-2のフロントパネル
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FDFM-2のリヤパネル。ここに別売の電池BOXが取り付けられる。なお銘板の会社名略称は「I.E.W.(INOUE ELECTRIC WORKS CO.,LTD)」だが、マイクロホンやフロントパネルは「I.C.E.(INOUE COMMUNICATION EQUIPMENTS CORP.)」となっている
FDFM-2が登場した昭和43年当時、VHF帯の主流は50Mc帯だった。144Mc帯は徐々に運用者が増え、電波型式がAMからFM中心に変わりかけていた時期だ。良いデバイスが少なく、ファイナル(電力増幅部)まですべてトランジスター式にしたコンパクトな2m機を作った井上電機製作所の技術力は高かった。
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FDFM-2の内部(上蓋を外したところ)
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FDFM-2の内部(下蓋を外したところ)。水晶発振子は144.48Mcの1波のみ装備
とは言え、FDFM-2が送受信できるのは144Mc帯の3chのみ。呼び出し用として使われることが多かった(※)144.48Mcの水晶発振子のみ標準装備されていて、あとの2ch分は希望する周波数の水晶発振子を無線ショップに注文(有償)して追加しなくてはならなかった。ちなみに井上電機製作所が144~146Mcを40kcステップでフルカバーする、世界初のPLL搭載FMモービル機「IC-200」を発売したのは、FDFM-2から4年後の1972年のことだった(JAIAが結成され、JARLがチャンネルプランを作ったのは昭和46年になってから)。
FDFM-2の内部を開けると、たった今作られたかのような美しい基板なのに、現在では使われることがないような大型の電子部品が並んでいる不思議さがあり、芸術的とも言える配線の引き回しや、ところどころに見られる手作り感など、見ていてまったく飽きない。しばらくは蓋を開けたままシャックに置き、眺めていようと思っている。
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FDFM-2の内部。中央は送信出力部
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FDFM-2の内部。リレーとコイルまわりを眺めているだけで酒が美味しく飲めそうだ
なお、株式会社井上電機製作所(略称:I.E.W.またはI.C.E.)は1970年に本社を大阪市平野区へ移転。1971年に略称を「ICOM(当初の読み方は“イコム”、その後“アイコム”)」とし、1978年にアイコム株式会社に商号変更を行っている。
同社が本社内に開設しているショールームでも、FDFM-2を見ることができるが、ホイップアンテナや電池BOXが取り付けられない5Wタイプの「FDFM-2S」のようだ。もし“貴方のFDFM-2をショールームの展示用に寄贈してください”と言われたらどうしようか…と、今から考えている(hi)。
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アイコム大阪ショールームにもFDFM-2を展示(写真上段左から2番目)。ただしホイップアンテナや電池BOXが付けられない、5Wタイプの「FDFM-2S」のようだ
●関連リンク: アイコムの歩み(アイコム株式会社)