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feed <知床の観光船遭難事故>事実解明が待たれる「アマチュア無線で交信」の疑問点 (2022/4/28 16:00:42)

2022年4月23日、北海道知床沖で有限会社知床遊覧船所属の26人乗り観光船「KAZU I(カズワン)」が消息を絶ち、これまでに11人が死亡、15人が行方不明になる痛ましい事故が発生した。報道によると、同船が緊急事態を伝えてきたのは同業他社のスタッフと行った「アマチュア無線での交信」だったとされている。この点に何か違和感を覚える無線家も多いのではないだろうか。そこ でhamlife.jpが独自に確認したことと、4月28日15時の時点で報道されている内容から疑問点を挙げてみたい。

 

 

有限会社知床遊覧船所属の観光船「KAZU I」(同社ホームページより)

 

 

 まず各社の報道から事故発生時の経緯をまとめる。

 

 4月23日午前10時頃、有限会社知床遊覧船所属の「KAZU I」(19トン、定員65人)が24名の乗客と2名の乗組員を乗せ、ウトロ港から知床岬付近まで往復3時間の遊覧に出発した。同船が浸水しているという118番通報が海上保安庁に入電したのは13時18分。通報したのは知床遊覧船の数軒隣に事務所を構える、同業他社の観光船業者のスタッフと伝えられている。

 

 このスタッフは13時頃、有限会社知床遊覧船の事務所に立ち寄った際「13時の帰港予定が遅れている。船長の携帯電話が繋がらない」と知らされ、それはおかしいと自分の事務所に戻ってアマチュア無線で「KAZUⅠ」を呼び出した。すぐ同船と連絡が取れ「現在地は“カシュニの滝”あたりにいる」という回答があったが、その後13時13分頃に無線の向こうから「救命胴衣を着させろ」という切迫した声が聞こえ、続いて「浸水してエンジンが停止している。沈むかもしれない」という内容を伝えてきたので、このスタッフが118番に通報し、有限会社知床遊覧船にその交信内容を知らせたという。

 

 その後13時18分には「KAZUⅠ」から海上保安庁へ「船首が浸水している」という118番通報があったが、これを最後に同船からの連絡は途絶えたとされている。

 

★事務所に立っていたGPアンテナ

 

 有限会社知床遊覧船の事務所には無線機があり、建物横にはアンテナが立っていたが、今冬に折れて送受信ができない状態だったという。修理を進言した関係者に対し、同社の社長は「いまは携帯でいいから」として修理を行っていなかったと報道されている。

 

 hamlife.jpがGoogleマップで確認すると、まだ折れていない状態のGPアンテナが建物横に立っているのが確認できた。アマチュア無線でも使われるVHF帯の高利得タイプにも見えるが、型番などはわからない。

 

Googleマップでは、有限会社知床遊覧船の建物に取り付けられているGPアンテナが確認できる

 

★「有限会社知床遊覧船」は簡易無線局の免許を受けている

 

 hamlife.jpが総務省の無線局等情報検索で確認したところ、有限会社知床遊覧船は467MHz帯の簡易無線局(467~467.4MHzの65波、空中線電力:5W、電波型式:5K80F1Dと5K80F1E。移動範囲:日本全国及び日本周辺海域)の免許を8局分受けていることがわかった。他には9410MHzの「無線航行移動局」(いわゆるレーダー)の免許を「KAZUⅠ」を含め2船舶で受けている。その他の免許情報は確認できなかった。

 

総務省の無線局等情報検索では、有限会社知床遊覧船で免許されている簡易無線局が8局確認できた

無線局等情報検索より。8局ある同社の簡易無線局の免許内容はいずれも同じ。467MHz帯のデジタル簡易無線だった

「KAZUⅠ」搭載のレーダーと思われる免許情報もヒット

 

 

 この簡易無線機は、遭難した「KAZU I」に搭載していなかったのか。同船にはマリン用でよく見られるグラスファイバーで覆われたロングタイプのアンテナが設置されていたが、これは簡易無線用のものか? 仮に基地局側と船舶側の双方が高利得アンテナを使ったとしても、467MHz帯の5Wデジタル波では40km以上離れた知床岬付近まで連絡を取るのは難しいかもしれない。

 

「KAZUⅠ」に取り付けられているアンテナ

 

★「アマチュア無線使用」の違和感

 

 今回、同業他社のスタッフとKAZUⅠの交信に使われたのは、本当にアマチュア無線だったのだろうか。本当だった場合なぜアマチュア無線だったのだろうか。肝心のこの部分が確認ができていない。簡易無線の場合、交信できるのは“免許人所属の簡易無線局”に限られ、会社を超えた交信(同業他社の事務所~「KAZUⅠ」間など)は難しいことから、アマチュア無線が使われていた可能性が否定できない。このスタッフと「KAZUⅠ」の船長が“アマチュア無線友達”だったのだろうか?

 

 当然のことだが、アマチュア無線を仕事の連絡に使うことはできない(違反した場合は電波法により1年以下の懲役または100万円以下の罰金となる)。アマチュア無線機を搭載すること自体は禁止されていないため、船長が余暇に個人的な無線交信を楽しむために搭載していたのだろうか? 無線従事者資格や無線局免許の有無も気になる(無線局等情報検索でもそれらしきアマチュア局、社団局は確認できなかった)。総務省 北海道総合通信局の調査が待たれる重要なポイントだ。

 

総務省も「アマチュア無線は仕事に使えません」「免許を持っていても電波法違反です」と周知に努めているが…

 

 Twitterでは、かつて知床の観光船で学生アルバイトの経験があるという人物が「あそこには大小様々な観光船の会社があって、今回事故を起こしてしまったのは小型船のうちの一社です」「 他社の船どうしで無線連絡を取り合い、ヒグマの出没状況や海上の時化具合などを踏まえて運航するのが知床の観光船なので 、今回の事故最大の要因は、天気が悪いのにたった一隻で出港してしまったのがいけなかったと思います」と述べている。こうした各社間の運航情報の交換にアマチュア無線が使われていたのではないだろうか?

 

★アマチュア無線使用の「違法性」に触れたメディアは?

 

 今回の遭難事故に関連して、さまざまなテレビや新聞が「アマチュア無線で交信」と紹介しているのだが、アマチュア無線を業務使用すると法律違反になることに言及しているのは、hamlife.jpで確認した限り「日刊スポーツ」の下記記事のみだった。

 


 

【知床観光船事故】無線は義務化なし、携帯等は自社判断 通報されたアマチュア無線は認められず
https://www.nikkansports.com/general/nikkan/news/202204270000909.html

 

“国土交通省海事局安全政策課によると、旅客船舶には無線設備を設置することは義務化されていないが、非常時に通信可能な携帯電話、もしくは衛星電話を用いることは運航会社それぞれの判断にゆだねるとしている。事故当日は、アマチュア無線で状況を知った別会社から118番通報がされたが、総務省の規定では、アマチュア無線は業務に関連する使用を認めていない。”

 


 

 なお、船舶の遭難など人命に関わる事態に直面した場合は、電波法に基づく「非常通信」または「非常の場合の無線通信」が認められている。今回のケースの場合、「KAZUⅠ」と同業他社のスタッフが行った交信自体は(アマチュア無線であったとしても)これに該当すると考えられるだろう。

 

 今日4月28日には、フジテレビ系のニュース番組「Live News イット!」のコメンテーターに、熱心なアマチュア無線家として知られるジャーナリストの柳澤秀夫氏(JA7JJN)が登場する。柳澤氏がこの遭難事故に関連し、アマチュア無線の業務使用が禁止されていることを、明確にコメントしてほしいと願っている。

 

 

 今回の観光船事故について、一刻も早い全員の救助を願うとともに、亡くなられた皆様のご冥福を心よりお祈りいたします。(hamlife.jp)

 

 

 

●関連リンク:
・無線局等情報検索結果「有限会社知床遊覧船」(総務省)
・有限会社知床遊覧船ホームページ
・アマチュア無線は仕事に使えません!(総務省)
・【知床観光船事故】無線は義務化なし、携帯等は自社判断 通報されたアマチュア無線は認められず(日刊スポーツ)
・「救命胴衣着させろ」 知床観光船、事故直前の無線通信明らかに(Yahoo!ニュース)

 

 

 


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