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移動用マルチバンド EFHW アンテナをつくってみた (2022/9/19 17:55:00)
移動運用向けに、長いカウンターポイズ/ラジアル線不要でコンパクトにまとまり、複数バンドにオンエアー可能なEFHW アンテナを作る。
動機
IC-705 移動運用の持出用に、コンパクト軽量にまとまる手頃なアンテナが無いか物色していた。
ダイポールアンテナ
- グランドが不要なのは大きなメリット。
- ただし、ポールなどでワイヤーの中央を吊り上げて長い同軸ケーブルで給電する必要がある。
1/4波長垂直系アンテナ
COMET HFJ-350M
- オプションの拡張コイルとノンラジアル周波数拡張コイルを使えば1.8 MHz帯から 145 MHz帯まで使える。
- バンド切替は短縮コイルのバンド毎に固定のタップをショート。
- SWR 調整はロッド・エレメントの長さを調節しないといけない。調節時は感電しないように送信停止しないといけないのが少し面倒。
DIAMOND RMH8B
- 7 MHz帯から 50 MHz帯まで使える。
- 短縮コイル部の調整が無段階なので、調整が楽そう。
- アンテナ・エレメントを電線で延長して短縮コイルを緩めて短縮率を軽減する事も出来る。
- アンテナ接栓が BNC で機構的に弱いという評価もあるが、かなり便利そう。
1/4 波長のロングワイヤー
- 7/21 MHz帯で約 10/3.6 m の電線さえあれば作れる。
カーボン釣り竿アンテナ
近頃巷で流行しているカーボン釣り竿そのものをエレメントとして使う方法。
ただこれらのアンテナは基本的に1/4波長の接地アンテナなので、
別にカウンターポイズ/ラジアルが必要になるのが少し面倒。
線のばら撒き方や、地面の状態によりなかなか安定しないのも悩みの種。
ダイポールでは真ん中を支えるポールや、その他のアンテナも直立させる方法も悩ましい。
色々物色していると。長いカウンターポイズ/ラジアルが不要でワイヤーの端から給電可能な。
EFHW (End
Fed Half Wave) アンテナという半波長電圧給電アンテナが、欧米では割と一般的なようです。
日本では昔からツェップ(ライク?)アンテナと呼ばれていた形式。
EFHW アンテナ
EFHW とは End - Fed -
Half -Wave の略。1/2 波長アンテナ線の端点から給電する方式。
ツェップ(ライク)・アンテナ
元々、空中に在ってグランドが取れないドイツのツェッペリン飛行船で使用されていたアンテナだそう。
1/4波長の平行フィーダを使用して、半波長のエレメントの端の高インピーダンス点から電圧給電する。
飛行船からフィーダ + エレメントを垂下させるだけで良い。
1909年に、Hans Beggerow 博士が発明し 特許を取得 。
無線通信が始まってからさほど時間が経っていない第一次世界大戦当時に、こんなアイデアを実用していたとは感心するしかない。
1/4波長平行フィーダによる、低インピーダンスから高インピーダンスへの変換の代替として、
並列共振トランスによるインピーダンス変換で半波長ワイヤーの端から給電するツェップ(・ライク?)アンテナもある。
長い平行フィーダが不要になるのがメリット。
1928年には、オーストリアのアマチュア無線家 OE1JF, Josef
Fuchs 博士の”
Sendeanordnung für drahtlose Telegraphie." 特許が取得 されている。申請は1927年。
この形式と、その改良系がツェップまたはツェップ・ライク・アンテナとして有名だったと思う。
- Steve Yates - AA5TB さんの The End Fed Half Wave Antenna
このページは、LC並列共振を利用したタイプの EFHW の解説。
大変良く考察されていて、様々なページでも参照されている。
(特に興味深いのは、本来 0.05
波長のカウンターポイズが必要だが実際には無くても問題が無くても大丈夫な場合が多い理由が説明されている。)
例えばこんな動画
- Explaining End Fed Half Wave Antennas & Experimentation - Ham Radio DX
但し、これらは LC
並列共振を使うので基本的にモノ・バンド専用。
Multi-Band EFHW アンテナ
欧米では、LC並列共振トランスにより電圧給電の高いインピーダンスに整合させるのでなく。
トロイダルコアの広帯域トランスでインピーダンス変換して、基本周波数の整数倍(偶数倍じゃない!)の周波数でも使える
Multi-Band EFHW アンテナも良く使われているようです。
トラップやアンテナ線を周波数に合わせて短くするタップを使ってマルチバンド化している例も多いのですが。
アンテナ線の途中に余計な部品を付けると重たくなるし、アンテナ線の展開時に邪魔になる場合も。
ダイポールアンテナのような中央からではなく、ワイヤーの端から電圧給電する EFHW ならば
ワイヤーだけで基本周波数の奇数次高調波のみならず偶数次高調波も同じように給電可能。
- Steve Dick, K1RF さんによる The End-Fed Half-Wave Antenna
それ以外にも
などのページだけではなく。
YouTube でも "multiband end fed"
などで検索すると、高調波を利用したマルチバンドの EFHW に関する動画が一杯ヒットします。
基本的に海外では3.5 MHzの半波長 40m のアンテナ線に、高調波を乗せてマルチバンド化している例が多いのですが。
さすがに 40 m は長すぎるので約 20 m ならば、アンテナ線を展開後に 7/(14)/21/28
MHz帯の各バンドで使えるアンテナになりそう。
予備実験
トロイダルコアの広帯域トランスと約 20 m のワイヤーで、いろいろ実験して試してみた。
インピーダンス変換トランス
色々な資料には EFHW アンテナ給電点インピーダンス約 2.45 kOhm
とあるのだが、実際に私の場合は約 4 kOhm 付近と高いようで、インピーダンス比 1:49 や 1:64
のトランスでは変換後のインピーダンスが 50 Ohm よりかなり大きくなってしまった。
2次側の巻き数をいろいろ試してみたところ、巻き数 3t : 27t = 1 : 9 のインピーダンス比 1 : 81
とかなり大きな比率が良いという結果になった。
ワイヤーの長さ
基本波とそのちょうど整数倍の高調波で共振するという事前の予想とは少し状況が異なり、
7
MHz帯に共振するようにワイヤーの長さを調整すると。
その整数倍で共振するはずの 21/28
MHz帯の共振周波数が、予想外に高い方にズレてしまった。
逆に 21 MHz帯で共振するように長くすると、7 MHz
帯がかなり下で共振してしまう。
7/21/28
MHzの各周波数帯のバランスで妥協出来る点を探そうとしたが、少し無理があるので諦めた。
単純な理論上では、正確に基本波の整数倍で共振するはずだが。
ワイヤーの太さの影響で高調波により波長の電気的長さが変わる為と思われる。
ピアノやギターの弦振動と同じようなイメージか。
この問題に対して、DL7AB
さんが周波数の高いバンドの共振周波数をコイルで補正する方法を発表していた。
DL7AB さんの例はアンテナワイヤー 40 m の基本波
3.5 MHz帯での例なので、そのままは使えず。
長さ半分の 20 m のワイヤーで基本波の7
MHz帯の共振周波数に余り影響を与えず高調波の共振周波数を下げる補正コイルをいろいろ試してみた。
カットアンドトライの結果、ワイヤー先端から 2.3 m 付近に約 2.5 uH
のインダクタンスを挿入することで、各バンドの共振周波数を目標とする付近に調整できた。
製作
構成
インピーダンス変換トランス
FT82-43 フェライトコアに、インピーダンス変換トランスを巻く。
多くの製作例では、
- インピーダンス比 1:49 (巻き数比 1:7)
- インピーダンス比 1:64 (巻き数比 1:8)
何故か巻き数比は整数倍が好まれているようだが、整数倍である必然はないように思う。
実際にやってみると電圧給電点インピーダンスはかなり高いようで。
色々試した結果、私の場合は巻き数 3:27
のインピーダンス比 1:81 に落ち着きました。
最初の 3t
は1次側、2次側を密着させる為によじっておき。
入出力を離してアイソレーションを向上させる為に、長い2次側の巻き線は途中で反対側に通す W1JR 巻きで。
給電部
アンテナ・ワイヤー巻き取り部を兼ねた給電部を。
ある程度の柔軟性を持ったプラスチック板を切り抜いて作成。
- 無線機と接続する BNC ジャック。
- インピーダンス変換トランス。
- アンテナ(赤)とカウンターポイズ(黒)の接続ターミナル。
- トランスの1次側と2次側の接続/非接続を試せるトグルスイッチ。(これはどちらにしても、余り影響がありませんでした。接続したままにしてスイッチは不要でしたね。)
トロイダルコアのトランスは、結束バンドで固定。
プラスチック板をこのような形にしたのは、アンテナ・ワイヤーの巻取りをやりやすくするため。
ワイヤーを巻き取るときに、2つの角というか足のような部分を利用して、
互いに交差させるように所謂「8の字巻き」にして巻取ります。
また、手で保持し易いように、大きな長孔も設けています。
単純にグルグルと巻いてしまうと、巻きを解くときに捻じれが発生してしまいますが、
8の字巻きにしておくと捻じれずに絡みません。
消防ホースや音響ケーブルを扱う人達が良く使う巻き方ですね。
アンテナ・ワイヤー
アンテナ・ワイヤーは、被覆が
被覆色は、晴天下で目立たず?汚れも気になりにくそうな青色を選定。
補正コイルは、安価な呼び径 13 外直径 24mmの塩ビ・パイプ接手を利用して
ワイヤーの先端から 2.3 m の位置に、巻き数 11T で補正コイルを仕込む。
展開方法
給電部を紐で固定。適当な柵や立木に、もやい結びで結びつける。
適当な高さの立木の枝などを利用してパラコードで、アンテナ・ワイヤーを吊り上げる。
いったんスローウェイト(要は輪っかのついた砂袋)にパラコードを巻き結びで結び付け、
適当な高さの立木の枝などに投げてパラコードを渡す。
スローウェイトの代わりに、木の切れ端や別の錘でも良いのだが。
地面で跳ね返って、怪我したり周囲の物を傷つける可能性もある。
意外に値段は張るが、スローウェイトはある程度柔らかく物を傷つけず、地面でも跳ね返らないので安全。
無事に目標の高さにパラコードを渡せたら、先端のスローウェイトを地面まで降ろして外し。
輪っかが勝手に絞まっていかない、もやい結びで作った輪っかにアンテナ・ワイヤーを通しておき。
パラコードを引っ張ってワイヤーを高く上げていく。
ワイヤーの先端は、パラコードの途中によろい結び(ハーニス・ヒッチ)で輪を作り。
ワイヤー先端のフックに引っ掛ける。
パラコードの端を自在結びで、適当な柵や立木、地面に打ったペグに結びつける。
最後に、自在結びを調節してワイヤーをピンと張る。
測定
近所の公園で、逆V字型にワイヤーを展開して IC-705 の SWR計と Nano-VNA で測定。
7 MHz帯
21 MHz帯
28 MHz帯
14 MHz帯
従事者免許が旧電信級、現第3級の為。Nano-VNA
による測定のみ。
5~30 MHz
試用
試しに近所の小さい公園で人が居ないのを見計らい、アンテナを展開して FT8 してみた。
1月9日という真冬で陽が暮れると寒いので、本格的に 7 MHz帯 DX が開く前の 17:30 頃に撤収退散したのですが。
自宅に帰ってから PSK Reporter を確認すると、7 MHz帯 IC-705 5W
出力でも豪州方面や北米西海岸まで飛んでいました。
小さく軽量にまとめて持ち出せて、グランド線の引き回しに気を遣うことなしに、
それほど手間がかからず短時間でワイヤー展開/撤収作業が行え。
しかも外部アンテナ・チューナー要らずで、7/21/28 MHz帯に On Air
出来る移動用マルチ・バンド・アンテナになりました。
逆V風以外にスロープ風など展開の仕方や、給電点の高さなどをいろいろな場所で試して、
補正コイルの位置や巻き数および広帯域トランスの巻き数比を調整して完成度を高めたいですね。
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