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feed 2023年アマチュア無線関係電波法令大改正にJARLが果たした役割(ファクトチェック) (2023/4/9 17:05:22)

いよいよ官報掲載→施行

2023年3月22日、「ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線の活用等に係る制度改正」関係の改正省令・告示が、官報に掲載されました。こちら(e-Govのパブコメ結果サイト)に、 改正省令・告示・審査基準の全文 が掲載されています。

JARLによる改正法令の解説は、悲しいかな、官報掲載に間に合いませんでした。代わりに、 総務省移動通信課の手による解説がJARL Newsに掲載され、そのPDFが一般公開されました 。総務省は、 社会貢献活動に関するガイドラインを2021年3月の法令施行までに出せなかったJARL には期待できないと判断し、代わりに自分で解説を書いたものと思われます。

JARLが果たした役割(JARLの公式見解)

パブコメ開始時 (2022年11月16日)

パブコメ結果公表時 (2022年3月9日)

改正省令等施行時 (2023年3月22日)

まるで、 JARLがきっかけを作り、「アドバイザリーボード」で内容が決まった、JG1KTC髙尾義則会長が制度改正を推し進めたかのような 書き方です。実際はどうだったのでしょうか。最近はやりの「ファクトチェック」をしてみましょう。

結論

  • 今回の改正の中核部分は、「アドバイザリーボード」より前に開催された内閣府の規制改革推進会議「経済活性化ワーキング・グループ」で、すでに決まっていた。
  • JARLにとって、内閣府のワーキンググループに参加できなかったのは黒歴史なのか、一言も触れていない。
  • アドバイザリーボードでの髙尾氏のプレゼン内容は、すでに内閣府で決まっていた内容をなぞったもの。独自の要望もあるがほとんど実現していない。
  • 総務省は、今回の改正を受けてJARLに「宿題」を与えているが、髙尾会長は頑としてやろうとしない。

私は、髙尾氏が、このような現実を隠して「今回の改正は自分の手柄」のように言うのは、不誠実だと思います。

「デジタル変革時代の電波政策懇談会」にJARLが提出した意見(2020年12月)

確かにJARLは、「 デジタル変革時代の電波政策懇談会 」が始まってすぐの2020年12月に 意見を出していました 。その要旨が、 JARL第54回理事会報告 に掲載されています。

「無線従事者資格と無線局免許が一体となる」いわゆる「包括免許制度」を要望しています。長年の願望を繰り返しただけで、具体的な改正案を提案したわけではありません。

それにしても、意見募集に対し、 JARLとしては極めて珍しく感度良く動いている のが印象的です。総務省から意見を出すように誘われたのでしょうか。

「デジタル変革時代の電波政策懇談会」報告書(2021年8月)

懇談会がまとめた報告書案が、 2021年7月1日にパブコメに掛けられました

ご覧のように、「法制度全体との中で整合性を図りつつ」という、後ろ向きの言葉が入っていました。 「そんなに変えないぞ」という総務省の意図 が透けて見えました。私は、アマチュア無線に厳しい規制を課す必要はないと考えており、 「他の無線局との差異を法制度全体の中に適切に位置づけつつ」と修正すべきである、との意見 を出しました。

他方、JARLの意見はこちら。文章はやたら長いのですが、法制度をどう変えてほしいのか、ほとんど読み取れません。

懇談会の意見書は、2021年8月31日、 「法制度全体との中で整合性を図りつつ」という文言のまま確定し 、公表されてしまいました。

からめ手から伏兵現る!

その後、しばらく進捗が止まったように見えました。

ところが、突如、思わぬ方向から伏兵が現れます。 2021年11月19日に開催された内閣府の規制改革推進会議「経済活性化ワーキング・グループ」で、アマチュア無線免許手続が取り上げられた のです。

この会議に、著名なDXerであるJQ1GYU櫻井豊氏が「YOTA-Japanの事務局」としてご登場。「 アマチュア無線免許の制度改革に関する要望- Society 5.0時代のワイヤレス人材の育成に向けて - 」と題するプレゼンをされました。

櫻井氏は、「 既存の私たちアマチュア無線家にとっての要望というより、これから日本を背負って立つ若者を、どうアマチュア無線を上手に教材として使って育てていくか、人材を育成していくか、という視点に立った上での制度改革という御提案を申し上げたい 」と前置きをされた上で、これまで、社会に変革をもたらすイノベーションが出現する際、黎明期前夜にアマチュア無線が「プロトタイプ」の役割を果たしてきたという事実を明らかにし、アマチュア無線は「ワイヤレス人材育成ツールとしての存在価値」があると論じ、そのような価値を踏まえた制度改革に関する要望を、 大所高所から 展開されました。

これ以上私があれこれ説明するのは野暮ですので、以下の資料で直接、櫻井氏のプレゼンを味わって頂ければと思います。一流のプレゼンテーションとはこういうものをいうのだと思います。

パワーポイント   議事録  

さて、本記事との関係で、櫻井氏が提案された制度改革案の核心部分を見てみましょう。

櫻井氏は、「現行制度の枠組みを尊重」「段階的に」と、総務省の立場を尊重しつつ、

  1. 国家試験に合格後、従事者免許と無線局免許(コールサイン)を同時に付与すること
  2. 技適を受けた市販無線機であれば、あらゆるケースで「届出」で済むようにすること
  3. 自作無線機については既存の保証制度を用いつつ、必要に応じて制度見直しを行うこと

と、提案されています。これ、今回の制度改正の目玉である、

  1. 従免と局免の同時申請手続の導入
  2. 一括表示記号(電波型式・周波数及び空中線電力)の導入による局免記載事項の簡素化と、その結果、「届出」ですむケースの大幅拡大

と、ほぼ同じ内容です。

従免と局免の同時申請
一括表示記号(電波型式・周波数及び空中線電力)の導入
局免記載事項の簡素化

つまり、今回の改正の中核部分は櫻井氏のアイデアであり、それが、内閣府の懇談会で採用され、総務省に下りてきたものだった、というわけです。

より詳しくは、後日、2022年12月に行われたYOTA Japanのオンライン公開討論会で、櫻井氏自身がウラ話も含めて解説されています(1時間5分過ぎくらいから)。

特にこのシートに書かれた「今回の意見募集に至った経緯」が強烈です。

櫻井氏の2022年1月1日付けブログ記事「 2021年を振り返って 」にもまとめられています。

このように、内閣府の規制改革推進会議「経済活性化ワーキング・グループ」での動きに、 JARLはまったく絡むことができませんでした

昨年の社員総会で、JA3HBF田原社員がこの点について質問したのですが、日野岳専務理事(当時)は、 「JARLが意見を求められたことはない。」「どのような経緯で設置されたかもわからない。」「これ以上答えられない。」と、半ば自嘲気味に答えただけ でした。とても情けなく、残念なことでした。

JARLは、この内閣府のワーキンググループの存在について、JARL WebでもJARLニュースでも、一切触れていません 。JARLにとっての「黒歴史」になってしまったからでしょう。

「ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線アドバイザリーボード」では・・・?

さて、内閣府のワーキンググループで事実上「決着」が付いてしまった後、年が明けた2022年1月26日、「当連盟の髙尾会長も構成員として参画」した「 ワイヤレス人材育成のためのアマチュア無線アドバイザリーボード 」第1回会合が総務省で開催されました。

髙尾氏が行ったプレゼンテーションが、「 議事次第・配付資料 」として公開されています(PDF20枚目以降)。

「アマチュア無線界を代表して」?

髙尾氏は、「アマチュア無線界を代表して」意見を述べると言っています。しかし、このプレゼンに先立ち、アマチュア無線界から意見を公募したわけでもなく、 誰の意見をもとに作成したのかわかりません

髙尾氏のプレゼンの内容

髙尾氏のプレゼンでの要望事項と、今回の改正で実現した内容を比較しました。

髙尾氏の要望事項 今回の改正との関係
無資格運用の拡大 今回、実現しました。体験局→学校・親族体験制度→体験運用の全面解禁は、総務省としての既定路線でした。
髙尾氏はARISS局導入が要望された2017年当時、無資格者の運用に後ろ向きだったことは有名な話 です。その後、体験局を運用したこともなく、学校体験制度が導入されても普及活動を行いませんでした。無資格運用の拡大はよいことですが、髙尾氏の意見としては唐突感を覚えます。
教育・研究活動の場での活用 今回、実現しました。実際には、JARDが要望されたもののようです。髙尾氏の意見としては、唐突感を覚えます。
プロ資格での操作範囲の拡大 今回は実現していません。
養成課程の受講日数の1日への短縮 今回は実現していません (1日はオンラインでもOKにはなりましたが、JARDの要望でしょう。)。
従免と局免の同時申請・初心者用申請様式 今回、実現しましたが、櫻井氏の提案に基づき、 内閣府のワーキンググループで既に決まっていた話でした
「包括免許制度」「無線機の把握を行わない」「無線機の検査も不要に」 今回、実現しましたが、櫻井氏の提案に基づき、 内閣府のワーキンググループで既に決まっていた話でした
なお、内閣府のワーキンググループでは「無線機の個別把握は維持する」とされていました。「無線機の把握を行わない」と要望することは悪くありませんが、今回は実現していないことは事実です。
より一層の電波監視体制の強化 今回の改正では、 むしろ、電波監視体制は後退 してしまいました。144/430MHz帯のVoIP帯と広帯域データ帯でのFMシンプレックス運用が認められてしまい、バンドプラン違反を問えなくなってしまいました。
外国アマチュア無線家が手続不要で運用を可に 今回は実現していません。
「移動する局」と「移動しない局」の統合 今回は実現していません。
第三者のための通信を認めて 今回、非常時に限って、第三者通信が行えることが明確になりました。髙尾氏の意見としては唐突感を覚えます。

髙尾氏の要望のほとんどは実現していないこと、実現したのは、内閣府のワーキンググループですでに決定していた事項ばかりであったことがわかります。

さらに、今回の改正には、髙尾氏も要望せず、アドバイザリーボードでも議論されなかったことが多数含まれています。

  • 送信機の外部入力端子に接続する「アマチュア局特定附属装置」に係る手続の簡素合理化
  • 再免許の申請期間の短縮(6ヶ月に)
  • 人工衛星等のアマチュア局に関する制度の明確化及び整備
  • バンドプラン告示の簡素合理化
  • 記念局の制限
  • 同一構内での遠隔操作についての簡素合理化
  • 移動しない局への電場防護指針の適用厳格化
  • 複数のレピータのネット接続の解禁

アドバイザリーボードは、バンドプラン告示の簡素合理化(いわゆる「 7041問題 」の抜本的解決策)や、 複数のレピータのネット接続の解禁 (C4FM等のデジタルモードのレピータ実現につながる)などの 要望事項を述べる絶好の機会だったはずです。 髙尾氏はFT8やデジタルモードをしないので、関心が無かったのでしょうか。

総務省の方は、私のこのブログを含め、幅広く情報収集をされているそうです。 総務省の方が、アマチュア無線界の要望を直接広く拾い上げてくださったとは、JARLとして情けないことではないでしょうか。

私は、髙尾氏がアドバイザリーボードで、アマチュア無線家の長年の夢を幅広に要望したこと自体は、よいことであったと思っています。また、アドバイザリーボードに毎回出席された髙尾氏のご足労にも、一会員として感謝したいと思います。

ですが、 内閣府のワーキンググループの存在を隠し、今回の改正は自分だけの手柄であるかのように述べていることは、誠実ではないと思います。 事実と異なりますし、今回の改正に尽力された関係者にも失礼ではないでしょうか。

改正法令施行後

改正法令施行と同時に公開された総務省の解説 に、わざわざ「JARL会員の皆様へのお願いと期待」なる項目が用意され、このように書かれています。

総務省が、アマチュア無線家・JARL会員ひとりひとりに呼びかけていることに私は驚きました。我々は、総務省から、JARL会長の頭越しに、直接呼びかけられているのです。

また、総務省は、「 集合知として 」、つまり、これまで体験局や体験運用を経験してきたアマチュア無線家の知識・経験を集めて、マニュアルやツールを作ることを期待しています。

集合知(しゅうごうち):多くの人の知識が蓄積したもの。また、その膨大な知識を分析したり体系化したりして、活用できる形にまとめたもの。(「 コトバンク 」より)

人間たるもの、全てのことをひとりでできるわけではなく、誰でも得意不得意があります。特に、組織のトップに立つ人は、自分だけで(あるいは、自分の好き人たちだけで)何でもやろうとするのではなく、不得意なことは人に任せる、頼むことも必要だと思います。

ですが、昨年11月の理事会で、「体験局・ニューカマー支援委員会」等の設置が提案されたにもかかわらず、髙尾氏は、ファースト派理事を巻き込んでこれを否決し、葬り去ったのです。そして、未だに、体験運用マニュアルは作成されていません。 やる気のある人を潰しておいて自分はやらないとは、どういう考えなのでしょうか。自分より目立ちそうな人が登場するたびに排除していては、組織は回らず、衰退していくばかりです。

バンドプラン告示の簡素合理化を受けて、JARLとしては、独自のバンドプランを制定する必要があります。アマチュア無線界の意見に耳を傾け、 IARUでのバンドプラン改定の動き を踏まえた検討が必要ですが、そのような動きは見られません。このまま9月25日を迎える気なのでしょうか。

髙尾氏は、 2023年3月24日、総務省を訪れて 、今回の改正についての「謝意」を伝えたとされています。その際に電波部長から、「今回の制度改正を広くアマチュア無線界に周知し 業界をあげて アマチュア無線の活性化に取り組んでいただき、ワイヤレス人材育成が進むことへの期待」と、念押しされています。総務省は、髙尾氏に対し、今回の改正を自分の手柄と独り占めするのではなく、人の意見を聞き多くの人の協力を得て、まじめに広報やマニュアル作成等の体制作りをせよとおっしゃっているのではないでしょうか。

総務省の解説 には、「JARL髙尾会長様」という、行政が使うにしては珍妙な言葉が6カ所も登場します(通常、肩書きに「様」は付けません。いうなら「JARL会長髙尾様」でしょう。)。「髙尾さん、お願いだから仕事して!」という悲痛な叫びが聞こえるようです。

(2023-04-09 記)


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